医療機器開発向けの秘密保持契約書(ひな形)
こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。
一般社団法人日本医工ものづくりコモンズから、医工連携を行う際に利用できる秘密保持契約書のひな形が公表されていますので、今回はそれについて書きます。
秘密保持契約書のひな形をダウンロードできるWebページはこちら
この秘密保持契約書のひな形ですが、上記ページからダウンロードできる「秘密保持契約書について」のファイル中に記載されているように、「医師が企業に自分のアイデアを開示し,企業がそのアイデアに基づいて医療機器を製造(製品化)するかどうかを検討するという場面を想定して作成されております。医療機器を製品化するという結論に達した場合,企業と医師がその医療機器の共同(研究)開発に進み,製品化しないと判断した場合には契約が終了するというストーリ展開」を前提に作成されたものとなっています。
ちなみに、秘密保持契約書のひな形としては、次の3つのバージョンが作成されています。
詳細は各秘密保持契約書のひな形をご覧になっていただければと思いますが、これらの秘密保持契約書のひな形の特徴的な部分は、「医師から提供された情報に基づいて、発明等の知的財産を創作した場合には、それらの知的財産は、その医師と企業との共有になる」という条項が含まれているところだと思います。
特許法の通説によれば、「発明者とは、当該発明の創作行為に現実に加担した者だけを指し、単なる補助者、助言者、資金の提供者あるいは単に命令を下した者は、発明者とはならない。」(特許庁の資料)とされています。
そして、共同発明者の判断基準として、「発明は技術的思想の創作であるから、実質上の協力の有無は専らこの観点から判断しなければならない。思想の創作自体に関係しない者、たとえば、単なる管理者・補助者又は後援者等は共同発明者ではない。」と記載され、具体例として、次のような者は共同発明者ではないとされています。
- 部下の研究者に対して一般的管理をした者、たとえば、具体的着想を示さず単
に通常のテーマを与えた者又は発明の過程において単に一般的な助言・指導を
与えた者(単なる管理者) - 研究者の指示に従い、単にデータをまとめた者又は実験を行った者(単なる補
助者) - 発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えることにより、発明の完成
を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者)
したがって、この判断基準に従うと、医療機器の開発に積極的に関わらず、単に「○○○できる医療機器が欲しい」という課題を提示した医師は、共同発明者に当たらないことになります。
しかし、医療機器という特殊な分野では、実際に医療機器を利用する医師の情報が非常に重要になります(他の技術分野とは異なり、医師等の医療従事者でなければ、医療機器の問題点を把握することができないという特殊事情があります)。
そこで、上記のひな形には、情報提供だけであっても、その情報に基づいて知的財産が創作された場合には、(たとえ発明者でなくても)その権利については、原則として医師と共有にすべきだという考えが反映されているのかもしれません。
また、この条項以外にも、あまり見たことがない条項がいくつかありますが、これらのひな形は、医師と企業との秘密保持契約書を作成する際に大変参考になると思います。
ただし、全ての契約書に言えますが、ひな形はあくまでひな形であって、契約の目的や契約当事者の置かれた状況に応じて、各条項を修正する必要があることにご留意ください。
今後、医師と企業との間で秘密保持契約を締結する際には、これらのひな形を活用されてみては如何でしょうか?
双方にとって良い共同開発につながるのではないかと思います。
弊所では、契約当事者間の状況に合わせた秘密保持契約に関するご相談も承っております。
何かありましたら、弊所に是非ご相談ください。
今日は以上です。
※契約書へのリンクがおかしくなっていたので修正(2022/9/17)