こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。
2023年4月14日に、経済産業省から「大学研究成果の社会実装ケーススタディ」が公表されましたので、今回はこれについて書きます。
「大学研究成果の社会実装ケーススタディ」はこちら
この資料は、特許庁が大学に知財の専門家を派遣する「知財戦略デザイナー派遣事業」において得られた知見を取りまとめたナレッジ集です。
さて、この資料の内容ですが、次のような目次となっています。
- はじめに
- スタートアップ編
- 企業との共有特許を基にしたスタートアップの設立(工学)
- AI系スタートアップ設立に向けたビジネスモデルの構築(情報 ・AI)
コラム①過少なライセンス料の設定 - 創薬プラットフォームに関するビジネスモデルの構築(創薬)
- 知財のオープン&クローズ戦略を活用したスタートアップの設立(バイオ)
- 企業との連携編
- 企業との共同研究を見据えた基本特許の分割出願戦略(工学/情報・AI)
- 創薬スクリーニング技術の権利化とライセンス供与(創薬)
- 創薬に向けた2つの抗体の知財戦略と海外企業との連携(創薬)
コラム①権利化せず公表したことで研究構想を断念 - 研究内容の変更に伴う権利化と企業との連携 創薬
コラム②特許調査の不足による研究内容の重複
- その他編
- 社会基盤技術に関する産学コンソーシアムの設立(情報・AI)
この目次を見てわかるように、大学や公的研究機関と付き合う際の興味深い事例が解説されています。
例えば、「コラム①過少なライセンス料の設定」には、知財戦略デザイナーへ相談した時には手遅れだった失敗事例として、次のような事項が記載されています。
- 研究者は、創薬分野の特許を取得し、企業とライセンス契約を締結することになった。
- 契約交渉は、研究者とTLO により進められたが、どちらも創薬分野のライセンス料の相場を把握していなかった。このため、研究者は、相場より大幅に過少な、研究の継続に最低限必要な額をライセンス料として企業に提示した。 TLO は、他の分野の相場を参考にした場合、過少とはいえないことから、研究者が提示した額に違和感を持たなかった。
- 研究支援者が交渉の状況を知り、知財戦略デザイナーへ相談した時には、契約の準備が相当進んだ状態であったため、研究者が提示した額で企業と契約することになった。
そして、このような失敗を防ぐ対策として、次のように記載されています。
- 研究者が契約締結を最優先に考え、 不利な条件で企業と契約を締結してしまう事例は少なくない 。 また 、 技術分野によってライセンス料の相場は大きく異なる場合があることから 、 安易に他の分野の相場を参考にするべきではない 。
- 上記事例については、 研究支援者や TLO が創薬分野のライセンス料の相場を把握し 、 研究者とライセンス料について事前に認識の擦り合わせを行った上で 、 交渉に臨むべきであった 。
- ある技術分野におけるライセンス料の相場の把握にあたっては、 その技術分野のライセンス契約に一定の知見を有する企業出身者や知財専門家に相談することが一案として考えられる 。
このような対策を打てるかどうかは状況によって変わると思いますが、上記のようなことを考えられるかが重要だと思います。
この資料は、大学や公的研究機関の立場に立った記載となっていますが、大学等と共同研究をしようと考えている企業や、大学等からの技術移転を考えている企業にとっても大学等の考え方が分かる貴重な資料だと思います。
是非この資料を活用して、大学等を協力して技術開発してください!
弊所では、大学等との共同研究や技術移転に関するご相談を承っております。
何かありましたら、弊所に是非ご相談ください。
今日は以上です。