こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。
先日、知人から「GABA高蓄積トマト」の話を聞いたので、それについて調べていたところ、「ゲノム編集技術を用いた農林水産物に関するQ&A 」を偶然に見つけたので、今回はこれについて書きます。
「ゲノム編集技術を用いた農林水産物に関するQ&A 」はこちら
「ゲノム編集技術を用いた農林水産物に関するQ&A 」は、令和2年12月25日開催のゲノム編集技術を用いた農林水産物を考えるシンポジウムでなされた質問や、シンポジウム開催に先立って事前もらった質問に関し、Q&A形式にまとめたものです。
「ゲノム編集技術を用いた農林水産物を考えるシンポジウム」に関するWebページはこちら
なお、上記Webページからは、このシンポジウムの動画も見ることができます(2022年9月時点)。
さて、このQ&Aの内容ですが、次の質問に対する回答が記載されています。
- ゲノム編集技術について
- ゲノム編集技術で得られた農林水産物と従来育種により得られた農林水産物は、なぜ区別がつかないのか。
- ゲノム編集で主流な方法は CRISPR/Cas9なのか?どのような場合、SDN-1に含まれるのか。
- CRISPR/Cas9の使用にあたり、特許が問題となるか。
- 高次倍数性や栄養繁殖性の植物でのゲノム編集は難しいと聞いたことがあるが、利用は進んでいるのか。
- GABA高蓄積トマトについて
- 他の食品より GABA が多く含まれるのか。他の栄養素、味や食感はどうか。
- 食べ続けたり、食べ過ぎても、問題ないのか。
- 登録品種か。F1 品種なのか。F2 以降の扱いを知りたい。
- 販売方法を知りたい。今後、農家への種子の販促はどう考えているか。
- 希望すれば栽培できるのか。
- 周辺で栽培されている他のトマトとの交雑の可能性や環境への影響をどのように考えているのか。
- 食品の安全性や生物多様性への影響について
- ゲノム編集で得られた農林水産物の食品の安全性や生物多様性影響を、どのように確認しているのか。
- オフターゲットについて
- まれにしか起こらないのか、それとも相当の頻度で起きうるのか。
- オフターゲットの有無をどのように確認しているのか。
- 外来遺伝子の残存の有無の確認について
- 移入した核酸が残存していないことをどのように確認しているのか。
- 外来遺伝子の残存の有無の確認について
- 移入した核酸が残存していないことをどのように確認しているのか。
- 諸外国におけるゲノム編集技術の取扱いなどについて
- EU や中国におけるゲノム編集技術の取扱いはどうなっているか。
- ゲノム編集技術を用いた農林水産物の規制について、国際的な協調への取組は、どのように進んでいるのか。
- ゲノム編集食品の表示について
- 選択の観点から、義務化すべきとの声もあるが、今後どうしていくのか。
- 独自にゲノム編集食品の表示をすることはできるのか。
- ゲノム編集食品ではない旨の表示はできるのか。その場合、万が一ゲノム編集されたものであった場合の規制方針を教えてほしい。
- ゲノム編集技術の利用・理解促進
- 今後どのように利用しようと考えているのか。
- 「反対」、「届出手続は不要」と両論がある中で、どのように周知やコミュニケーションを進めていくのか。
- その他
- 近々、各省に届出されそうな品目や件数を教えてほしい。
- 研究開発段階でゲノム編集生物を作出し、野外で栽培試験等を実施する上で、大きな支障や問題点はあるか。
- ゲノム編集された農作物の GAP 上の取扱いはどうなるのか。
- ゲノム編集食品とそうでないものと区別するための公定法は策定するのか。
- ゲノム編集技術を用いた農林水産物の、製造物責任法上の取扱が知りたい。
- 遺伝子組換えやゲノム編集についての授業を行っている大学はどれくらいで、どのような内容で教えているのか。
- 講演者に消費者の立場の方がいないのはなぜか。
この目次から、さまざまな観点からの質問に対する回答が記載されていることが分かると思います。
例えば、「CRISPR/Cas9 の使用にあたり、特許が問題となるか。」という質問に対しては、次の回答が記載されています。
「我が国において欧米の研究機関による CRISPR/Cas9 に係る基本特許が成立しており、産業応用段階での使用に当たっては、実施権者から許諾を得る必要があると考えられます。具体的なライセンス料の水準や条件は不明ですが、一般的には特許の利用者が利用可能な水準で設定されるものと考えられます(農林水産省)。」
このように、各回答は比較的簡潔なものとなっています。
ただし、この回答は、あくまで上記シンポジウムの時点(令和2年12月25日)であることに注意してください。
技術的な質問に対する回答はほとんど変わっていないと思いますが、上述の特許や規制に関する状況は変わっている可能性があります。
さて、農林水産省がこのようなシンポジウムを大々的に開催するということは、国が農産物の新品種の開発にゲノム編集技術を積極的に活用して行こうと考えているのではないかと思います。
新品種を開発するためには膨大な費用と時間がかかりますが、開発された新品種は容易に増殖することが可能です。
容易な増殖は、新品種開発のインセンティブを低下させることになり、ひいては新品種開発が行われなくなってしまうかもしれません。そこで、新品種を保護する必要があります。
新品種を保護する法制度としては種苗法がありますが、ゲノム編集技術を活用した新品種は、種苗法だけではなく、特許での保護も可能となります。
新品種を開発した場合には、特許法での保護も是非検討してみてください!
弊所では、特許法および種苗法による新品種の保護に関するご相談も承っております。
何かありましたら、弊所に是非ご相談ください。
ちなみに、ゲノム編集技術を活用した「GABA高蓄積トマト」は、サナテックシード株式会社により購入可能です。
機会があったら食べてみようと思います。
今日は以上です。