種苗法関連裁判例3
こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。
先日、知財学会判例研究会で発表するために、種苗法の判例を調べたので、今回はそれについて書きます。
なお、今回の判例紹介も、あくまで私的な解釈ですので、疑義等がありましたら是非ご指摘ください。
鳥取地裁 平成30年1月24日、平成27年(わ)第7号「種苗法違反被告事件」
掲載判例集の例:なし
事実の概要
被告人が、育成者権者の承諾を受けないで、平成24年9月上旬頃から平成25年2月6日頃までの間、同県(以下略)所在のX所有の畑において、情を知らないXをして、「トットリフジタ1号」(品種登録の番号第15866号)と特性により明確に区別されない品種である植物体を生産および譲渡したという事案である。
判旨(侵害被疑品種がトットリフジタ1号又はこれと特性により明確に区別されない品種に該当するか否かの点のみ)
『被疑侵害品種は,確かに,登録品種であるトットリフジタ1号と、DNA型が厳密に一致しているとまで認めるには足りず(前記3(3)),また,品種類似性試験の結果で特性において若干の差はあること(前記4(2))などから,種苗法の解釈上,同法20条1項の「登録品種」そのものとまではいえないとしても,同項の「登録品種」すなわちトットリフジタ1号と「特性により明確に区別されない品種」に当たることは,優に肯認することができる。
なお、訴因変更後の本件公訴事実は,被告人が,「『トットリフジタ1号』……又は当該登録品種と特性により明確に区別されない品種……を……生産した上,……譲渡し」たというものであるところ,上述した次第により,当裁判所は,「『トットリフジタ1号』……と特性により明確に区別されない品種……を……生産した上,……譲渡し」たという事実を認定することとしたが,そうであっても,この生産・譲渡の行為が育成者権侵害罪(種苗法67条、20条1項、2条5項1号)を構成するものであることは明らかである』
『トットリフジタ1号のように,出願・審査ないし登録時の現物が存在しない品種については,現物主義の考え方を相応に踏まえたとしても,関係各証拠を総合考慮して,出願・審査ないし登録時の品種と被疑侵害品種とが特性により明確に区別されないかどうかを推認するという立証の仕方が,当然に許容されると考えられる(上記知財高裁平成27年6月24日判決も,特段上記の考え方を否定する趣旨ではないと解される。)。そして,本件でこの点の証明がなされたといえることは,既に検討したとおりである。』(赤文字、下線追加)
解説
本件判決は、種苗管理センターに登録品種が寄託されていないケースにおいて、育成者権侵害が認められた判決である。
従来の育成者権侵害訴訟では、「登録品種」と「侵害被疑品種」との対峙栽培を行い、そこで同一品種または明確に区別されない品種か否かが判断されていた。
ここで、「登録品種」とは「品種登録時の品種」であり、育成権者が「登録品種」と主張する品種と必ずしも一致しない。
(植物は、代を重ねるごとに特性が変化する可能性があり、「品種登録時の品種」と育成権者が「登録品種」とが一致するものとは限らないという、植物ならではの特性があるからである。)
しかしながら、本件判決では、「品種登録時の品種」が存在せず、実際に「品種登録時の品種」と「侵害被疑品種」との対峙栽培できない場合であっても、「関係各証拠を総合考慮」することによって、育成者権侵害が認定されている。
したがって、品種登録されていたとしても種苗管理センターに寄託していない登録品種や、そもそも寄託することができない登録品種に関する育成者権侵害訴訟においても、本件判決のような理論構成を用いることによって、育成者権侵害を立証できる可能性があることを示している。
この判決は、いわゆる「現物主義」の一部修正を示す判決例に相当するかもしれません。
なお、本件判決は控訴され、控訴審において地裁に差し戻すとの判決が出ているので、今後出される判決に関しても検討する必要がある。
以上
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