「著作権法第30条の4」等に関する解説資料が公表されました

「著作権法第30条の4」等に関する解説資料が公表されました

こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。

デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方の表紙
引用:デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方

以前、2018年改正著作権法に関するブログを書きましたが、令和元年(2019年)10月24日に、2018年改正著作権法に関する資料「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」が公表されましたので、今回はこれについて書きます。

「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定(30条の4、47条の4、47条の5等)に関する基本的な考え方」はこちら

さて、以前のブログでご説明したように、2018年改正著作権法では、柔軟な権利制限規定が導入されました。

今回ご紹介する「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定(著作権法第30条の4、著作権法第47条の4、著作権法第47条の5等)に関する基本的な考え方」は、これらの規定の趣旨・内容・解釈や具体的なサービス・行為の取扱い等に関し、文化庁の基本的な考え方が示されたものとなっています。

さて、この資料の内容ですが、大きく分けて次のような2部構成になっています。

  1. 第1部 一問一答
  2. 第2部 柔軟な権利制限規定の解説

第1部の一問一答については後述しますが、この資料の最も価値があると思われる部分は、第2部の柔軟な権利制限規定に関して、著作権法を所管する文化庁の見解が記載されている部分だと思います。

例えば、著作権法第30条の4で、いろいろ議論されている『著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合』という要件の「享受」に関し、『「享受」とは、一般的には「精神的にすぐれたものや物質上の利益などを、受け入れ味わいたのしむこと」を意味するとされており、ある行為が本条に規定する「著作物に表現された思想又は感情」の「享受」を目的とする行為に該当するか否かは、先に述べた立法趣旨及び「享受」の一般的な語義を踏まえ、著作物等の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為であるか否かという観点から判断されることとなるものと考えられる。』(38ページ参照)と記載されており、「享受」の解釈に関する判断基準が示されています。

そして、その具体例として、『例えば、美術品の複製に適したカメラやプリンターを開発するために美術品を試験的に複製する行為は、通常、画像の歪みのなさや色合いの再現性等,開発中のカメラ等が求められる機能・性能を満たすものであるか否かを確認することを専ら目的として行われるものであり、当該著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為ではないものと考えられることから、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為であると考えられる。』と具体例が例示されており、分かり易くなっています。

また、「享受」に関して、『本条では「享受」の目的がないことが要件とされているため、仮に主たる目的が「享受」のほかにあったとしても、同時に「享受」の目的もあるような場合には、本条の適用はないものと考えられる。』ということも記載されており、解釈の外延についても説明されています。

この他にも、柔軟な権利制限規定を理解するために必要な情報が記載されています。

今後、柔軟な権利制限規定を活用したビジネスを考えている方は、是非この資料を読んでみてください。
今考えているビジネスが日本で行うことができるか否かを判断するのに非常に役立つと思います。

次に、第1部に記載されている一問一答ですが、次のような問いに対する答えが簡潔に記載されています。

  1. 「柔軟な権利制限規定」が整備されたのはなぜか。
  2.  「柔軟な権利制限規定」について、制度設計の考え方はどのようなものか。
  3.  「柔軟な権利制限規定」の整備によって、どのような効果が生じるか。
  4. 「柔軟な権利制限規定」の整備に至る経緯は、どのようなものか。
  5.  規定の趣旨及び内容はどのようなものか。
  6.  著作物に表現された思想又は感情を「享受」するとはどのような意味か。
  7.  著作物に表現された思想又は感情の「享受」を目的としない行為とは具体的にどのような行為か。また、主たる目的は著作物に表現された思想又は感情の「享受」ではないものの、同時に「享受」の目的もあるような利用を行う場合は、本条の権利制限の対象となるか。
  8.  第30条の4の各号(次に掲げる場合)と柱書の「(その他の)当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」とは、どのような関係にあるか。
  9.  法第30条の4ただし書の「…著作権者の利益を不当に害することとなる場合」当たるか否かはどのように判断されるか。
  10. 今般の改正で整理・統合された旧法第30条の4(技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用)及び第47条の7(情報解析のための複製等)で許諾なく行えていた行為については、引き続き権利制限の対象となるのか。
  11. 人工知能の開発に関し、人工知能が学習するためのデータの収集行為、人工知能の開発を行う第三者への学習用データの提供行為は、それぞれ権利制限の対象となるか。
  12. プログラムの著作物の「リバース・エンジニアリング」は権利制限の対象となるか。
  13. 美術品の複製に適したカメラやプリンターを開発するために美術品を試験的に複製する行為は権利制限の対象となるか。また、複製に適した和紙を開発するために美術品を試験的に複製する行為は権利制限の対象となるか 。
  14. 日本語の表記の在り方に関する研究の過程においてある単語の送り仮名等の表記の方法の変遷を調査するために、特定の単語の表記の仕方に着目した研究の素材として著作物を複製する行為は、権利制限の対象となるか。
  15. 特定の場所を撮影した写真などの著作物から当該場所の3DCG映像を作成するために著作物を複製する行為は権利制限の対象となるか。
  16. 書籍や資料などの全文をキーワード検索して、キーワードが用いられている書籍や資料のタイトルや著者名・作成者名などの検索結果を表示するために書籍や資料などを複製する行為は権利制限の対象となるか。
  17. 人を感動させるような映像表現の技術の開発を目的とすると言えば、多くの一般人を招待して映画の試験上映会を行うことも、権利制限の対象となるか。
  18. 法第47条の4の趣旨及び内容はどのようなものか。
  19. 法第47条の4第1項の規定により、どのような利用行為が許諾なく行えることとなるのか。
  20. 法第47条の4第2項の規定により、具体的にどのような利用行為が許諾なく行えることとなるのか。
  21. 法第47条の4第1項の各号(次に掲げる場合)と柱書の「(その他これらと同様に)当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合」とは、どのような関係にあるか。また、法第47条の4第2項の各号(次に掲げる場合)と柱書の「(その他これらと同様に)当該著作物の電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し、又は当該状態に回復することを目的とする場合」とは、どのような関係にあるか。
  22. 法第47条の4第1項及び第2項ただし書の「…著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に当たるか否かはどのように判断されるか。
  23. 今般の改正で整理・統合された旧法の各規定で許諾なく行える行為について、引き続き権利制限の対象となるか。
  24. 法第47条の5の趣旨及び内容はどのようなものか。
  25. 法第47条の5第1項の適用を受ける主体はどのような者か。
  26. 法第47条の5第1項第1号に規定する所在検索サービスとはどのようなものか。
  27. 法第47条の5第1項第2号に規定する情報解析サービスとはどのようなものか。
  28. 法第47条の5第1項第3号に基づき政令で定めるサービスは、具体的にどのような内容のものがどのような手続で定められることとなるのか。
  29. 著作物の利用行為が情報処理の結果の提供等に「付随」するものであるか否かは、どのように判断されることとなるのか。
  30. 著作物の利用行為が「軽微」であるか否かは、どのように判断されることとなるのか。
  31. 法第47条の5第1項の著作物の利用行為が「著作権者の利益を不当に害する場合」であるか否かは、どのように判断されることとなるのか。
  32. 法第47条の5第2項はどのような行為を権利制限の対象としたものか
  33. 法第47条の5の規定により著作物を利用する者が従うべき「政令で定める基準」は具体的にどのような内容であり、基準の順守に当たって具体的にどのような点に留意する必要があるのか。
  34. 旧法第47条の6の規定により許諾なく行える行為は、引き続き法第47条の5の規定により許諾なく行えることとなるのか。
  35. キーワードに関連するインターネット上のウェブページや画像のURLを検索し、その結果を提供するサービスにおいて、URLの提供とともにウェブページ等の一部分を提供する行為(「インターネット情報検索サービス」)は、権利制限の対象となるか。いわゆるディレクトリ型の検索サービスや、サジェスト機能による検索についても対象となるか。
  36. ①あるキーワードが含まれる書籍の情報を検索し、その結果を提供するサービスにおいて、結果提供とともに書籍の本文の一部分を提供する行為、②利用者が録音した音声に含まれる楽曲を検索し、その結果を提供するサービスにおいて、結果提供とともに楽曲の一部分を提供する行為、③自分の関心のあるキーワードが放送されたテレビやラジオ番組を検索し、その結果を提供するサービスにおいて、結果提供とともに番組の一部分を提供する行為は、権利制限の対象となるか。
  37. ある作家の著書リストを掲載し、リストの中で著書の書誌情報を提供するサービスにおいて、書誌情報とともに本文の一部分を掲載する行為は、権利制限の対象となるか。
  38. ①ユーザーの装着した眼鏡型のデバイス等を用いて、話し相手や会話内容等の情報を入手し、これらの情報に関連する情報の所在を検索して、検索結果を眼鏡型デバイス上に表示するサービスにおいて、関連する情報の一部分を提供する行為や、②自動車内に搭載する各種センサーを用いて、周辺の店舗の口コミや都市イベント等の情報を入手し、これらの情報に関連する情報の所在を検索して、検索結果を車のフロントガラス等に表示するサービスにおいて、関連する情報の一部分を提供する行為は、権利制限の対象となるか。
  39. 対象の論文について、他の論文等と比較等することにより、剽窃の可能性を検出し、その結果を提供するサービスにおいて、結果の提供とともに対象の論文と同じ記述を有する他の論文の一部分を提供する行為は、権利制限の対象となるか。
  40. 特定の情報についての評判が掲載されているブログや新聞、雑誌等の内容を分析し、その結果を提供するサービスにおいて、結果の提供とともにブログ等の一部分を提供する行為は、権利制限の対象となるか。
  41. 患者の病状を踏まえて、過去の症例、治療方法、薬効等に関する様々な情報から最適な治療方法を分析し、その結果を提供するサービスにおいて、結果の提供とともに最適な治療方法と判断した根拠となる情報の一部分を提供する行為は、権利制限の対象となるか。
  42. ユーザーがSNSに書き込んだ内容や閲覧している内容等からユーザーの嗜好を分析し、ユーザーが興味を持つと思われるコンテンツに関する情報を提供するサービスにおいて、当該情報の提供とともに当該コンテンツの一部分を提供する行為は、権利制限の対象となるか。
  43. ユーザーが自ら歌唱・演奏した音源をプロの歌唱・演奏した音源と比較等して分析し、その結果を提供するサービスにおいて、その結果の提供とともにプロの歌唱・演奏した音源の一部分を提供する行為は、権利制限の対象となるか。

これらの問を見ると、非常に具体的な問題に対しても文化庁の見解が示されていることが分かると思います。

ここで気を付けて欲しいのは、この見解はあくまで文化庁の見解であって、最終的に法の解釈を行う裁判所の見解ではないということです。

ただ、著作権法を所管する文化庁の見解ですので、裁判所も解釈を行う際に参考にするのではないかと思います。

柔軟な権利制限規定についてどのように解釈すべきか悩んでいた方は、是非この資料を読むことをお勧めいたします。

弊所では、柔軟な権利制限規定を含む著作権法に関するご相談も承っております。
何かありましたら、弊所に是非ご相談ください。

今日は以上です。

この記事を書いた人

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