NITE講座の受講報告 遺伝資源国内取得書
こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。
2017年9月12日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の本所で開催されたNITE講座(2017年度・前期)に参加してきましたので、それについて書きます。
NITE講座は毎年2回行われているようで、初めて受講しました。
今回の講座は、アクセスと利益配分に関するABS指針への対応とABS指針第5章に規定された書類発給について」というタイトルで、以前のブログに書いたABS指針に関連したものとなっていました。
内容は次のようになっていました。
- アクセスと利益配分の基礎ー生物多様性条約と名古屋議定書-
- 遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ公平な配分に関する指針 ~ABS指針~
- ABSに関連する各国法令について
- ABS指針第5章に規定された書類(取得書)の発給について
- 取得書を有効活用するために~遺伝資源の預かりサービス~
この講座では、ABS指針が作成された経緯について、生物多様性条約・名古屋議定書の成立過程を含めた解説がありました。
次に、現時点での外国におけるABS関連法令の整備状況の解説がありました。
特に、インド、ベトナム、韓国については、関連法律の成立状況まで詳しく解説してくれました。
これらの国の遺伝的資源を利用する場合には、まずNITEに相談してみるのが良いのではないかと思います。
そして、今回の講座の目玉である「遺伝資源国内取得書」に関する解説がありました。
ここで、「遺伝資源国内取得書」とは、ABS指針第5章に規定されている「遺伝資源が国内で取得されたことを示す書類」をいいます。
この書類は、独立行政法人その他の機関であって主務大臣が適当と認めるものが、発給することができると、ABS指針第5章に規定されています。
そして、NITEのプレスリリースによると、NITEは、2017年9月7日に経済産業大臣からその認定を受けて、日本で最初の「国内取得書」発給機関となりました。
さて、この「遺伝資源国内取得書」ですが、日本で採取された遺伝資源を使ってビジネスをしている場合に役立ちます。
日本の制度では、遺伝資源を利用する者の負荷を軽減するために、日本で採取された遺伝資源に対して「情報に基づく事前の同意」(PIC)を求めていません。
したがって、その遺伝資源に関して、取得の機会及び利益の配分に関する情報センター(ABSクリアリングハウス)に通報もできないため、名古屋議定書第17条2に規定されている「国際的に認められた遵守の証明書(IRCC)」も取得することができません。
その結果、例えば外国から「わが国で採取した遺伝資源を使って利益を得ているのではないか」と疑われた場合に、「その遺伝資源は日本で採取された遺伝資源である」と主張しても、それを立証することができません。
そこで、この「遺伝資源国内取得書」が役立ちます。
この国内取得書を取得すると、NITEのwebサイト上に、その国内取得書の発給番号と発給日が掲載されることになっています。
そうすると、「遺伝資源国内取得書」を受け取った者が、このWebサイトを見れば、その国内取得書がNITEから正式に発給された書類であることを確認することができます。
すなわち、日本の独立行政法人であるNITEが、その遺伝資源は日本で採取されたものであると認めていることが分かります。これは、IRCCと似たような制度になります。
また、希望に応じて、「遺伝資源国内取得書」のコピーをNITEのwebサイトに掲載することもできるようです。
日本政府およびNITEは、遺伝資源を利用する者の負荷を軽減しつつ、無用な紛争に巻き込まれないような仕組みを用意してくれたようです。
日本で採取された遺伝資源を利用しようとしている企業は、「遺伝資源国内取得書」を活用することをお勧めいたします。
ちなみに、「遺伝資源国内取得書」の発給対象となる遺伝資源は、現時点(2017年9月)では、次の5つの条件をすべて満たすものとなっています。
- 原産国が我が国であるもの。
*「原産国」とは、生息域内状況において遺伝資源を有する国をいう。
*「生息内域状況」とは、遺伝資源が生態系及び自然の生息地において存在している状況をいい、飼育種又は栽培種については、当該飼育種又は栽培種が特有の性質を得た環境において存在している状況をいう。 - 提供国が我が国であるもの。
*「提供国」とは、生息域内の供給源(野生種の個体群であるか飼育種又は栽培種の個体群であるかを問わない。)から採取された遺伝資源又は生息域外の供給源から取り出された遺伝資源(自国が原産国であるかを問わない。)を提供する国をいう。 - 経済産業大臣が所管する事業での利用であること。
- ABS指針第1章第3の2で適用外とされた 食料及び農業のための植物遺伝資源の利用でないこと。
- ABS指針第1章第3の2で適用外とされた パンデミックインフルエンザ事前対策枠組みに基づく利用でないこと。
注意して欲しいのは、3の経済産業大臣が所管する事業でなければ、この制度を使えないということです。
この講座の質疑応答でも、質問されている方がいましたが、農林水産省や厚生労働省が所管する事業ではこの制度は使えません。
自社の業務が経済産業省の管轄に入るかどうか分からない場合には、NITEに相談してみて下さい。
なお、この講座で紹介された「遺伝資源の預かりサービス」については、次回のブログでご紹介します。
弊所では、ABS指針の活用を含めたライセンス契約のご相談も承っております。
何かありましたら、弊所に是非ご相談ください。
今日は以上です。