共同研究契約書を検討する際に役立つ資料15
こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。
今回は、文部科学省が提供している共同研究契約書に関する資料(さくらツール)について書きます。
さくらツールはこちら
さくらツールとは、研究契約の交渉等を独自に行う環境や組織体制が十分でない中小規模・地方大学またはベンチャー企業を含む中小企業を念頭に、大学と企業の2当事者間で締結される共同研究契約について、11類型のモデルとモデル選択にあたっての考慮要素からなるツールです。
さて、このさくらツールですが、「総論」と、各類型ごとに作成された3つの資料(和文契約書、その解説が記載された資料および英文契約書)で構成されています。
そして、「総論」の目次は次のようになっています。
- 現状と課題
- 海外の状況
- 「さくらツール」策定にあたっての基本的な考え方
- 全体構成及び共通事項の説明
- 各類型の概要及び用法説明
- 類型選択にあたっての考慮要素
- まとめ
詳細は、「総論」を読んでいただければと思いますが、その要点はやはり共同研究等成果の帰属の取扱いとなっています。
私が勤務していた産総研でも、共同研究契約を締結する際の問題点は、やはり共同研究の成果(特許やノウハウ)の帰属の取扱いとなっていました。
企業としては、共同研究費の多くを支払っており、さらにライセンス料(不実施補償料)を大学等の共同研究先に支払いたくないことから、共同研究の成果(特に特許)を企業単独所有にしたいという意向があります。
一方、大学等の公的研究機関は、たとえ共同研究費の多くを企業が負担したとしても、共同研究の成果が企業単独所有となってしまうと、その成果によって利益を享受することができなくなってしまいます(一般的に、大学等の公的研究機関はビジネスを行うことができませんので、共同研究の成果をビジネス化して収益を上げることができません)。その結果、得られた利益を使って、さらなる研究開発を行うことができなくなってしまいます。
そこで、共同研究先の企業または第3者からライセンス料(不実施補償料)を得られるように、最低でも共同研究の成果(特に特許)をその企業との共有にしたいという意向があります。
このように双方の意向が食い違うことから、共同研究契約を締結する段階になって、なかなかまとまらないということが多くなります。
もちろん、このような交渉に慣れている担当者がいれば、交渉して双方が満足するような形に収めることができますが、そのような担当者がなかなかいないというのが現状だと思います。
(私の経験でも、慣れている担当者ですとすぐにまとまりましたが、慣れていない担当者だとなかなかまとまりませんでした。)
そのように経験豊かな担当者がいない場合には、このさくらツールが役立ちます!
ただし、さくらツールは、次のような基本的な考え方に沿って作られていますので、留意してください(「総論」P6, 7参照)。
- 共同研究の成果については、可能な限り広い範囲で活用がなされるよう、知的財
産の帰属及び活用の柔軟な取扱いを認めるべきである。 - 知的財産の帰属は、研究に対する知的貢献あるいは経済的貢献の観点からバラン
スの取れたものであるべきである。- 企業は事業化・商業化を希望する知的財産については可能な限り権利を確
保する機会が与えられる。 - 一方で、大学が相当の知的貢献をした場合には、発生する知的財産は大学
に帰属した上で、企業の活用条件を当事者間で柔軟に交渉できるようにす
ることが望ましい。
- 企業は事業化・商業化を希望する知的財産については可能な限り権利を確
- 知的財産がいずれの当事者に帰属したとしても以下の条件は満たされなければな
らない。- 大学は将来の研究の可能性を制限されない。
- すべての知的財産は、実用化に向けて適切な努力がなされる。
- 研究の実質的な成果は、原則として合意された期間内に学術的な公表がなされる。
文部科学省が作成したものなので、企業の考え方とは相容れないこともあるかもしれませんが、今後大学等と共同研究を行う場合には、このさくらツールの考え方に沿った契約書案が提示されてくることになると思います。
企業も公的研究機関の考え方を理解した上で、共同研究契約書に関する交渉を行った方がスムーズに手続きが進むのではないでしょうか?
大学等の公的研究機関に所属する方だけでなく、企業の法務部・知的財産部に所属する方も、是非「総論」に一度目を通してみてください。
大学等とうまく付き合えるようになるかもしれませんよ!
弊所では、ライセンス契約に限らず、共同研究契約のサポートも行っております。
何かありましたら、是非ご連絡ください。
今日は以上です。