中小企業が大企業に対抗できる唯一の武器とは?-5
こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。
以前のブログで書いた、株式会社島野製作所とApple社との間で争われていた特許権侵害訴訟の知財高裁での判決(平成28年(ネ)10042号)が出ましたのでご報告します。
ただし、この裁判では、秘密保護のための閲覧等の制限決定の申し立て(民訴92条)がなされているため、現時点(2016年10月31日)では判決の要旨しか公開されていません。
(判決全文が公開されましたら、改めてご報告いたします。)
さて、この判決の要旨によると、Apple社製品は、島野製作所の特許(特許第5449597号)の発明の構成要件を充足しないことから、文言侵害(※1)成立せず、均等侵害(※2)も成立しないという判決になったようです。
文言侵害については、Apple社製品のコマ状部材は、構成要件の「押付部材」に該当せず、他に「押付部材」に該当するものはなく、Apple社製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは、構成要素の「押圧」に該当せず、他に「押圧」に該当するものはないと認定しています。
一方、均等侵害についても、均等侵害の成立が認められるためには、いわゆる5要件を満たす必要があるところ、島野製作所はそのうちの1点(「押付部材」が球形であるのに対し、Apple社製品のコマ状部材が球形ではないという点)のみ均等の5要件を主張するのにとどまることから、主張自体が失当であると判断されています。
判決の要旨だけだと全体が分からないのでハッキリとは言えませんが、島野製作所にとっては、厳しい判決のように思えます。
さて、この判決に対しては、上告することができます。
しかし、最高裁は法律審(※3)ですので、上記の事実認定を覆すのはなかなか難しいのではないかと思います。
上告するのであれば、どのような上告理由・上告受理申立をするのか個人的には興味があります。
この裁判に進展がありましたら、またブログで書きたいと思います。
今日は以上です。
※1 文言侵害とは、対象製品または対象方法が特許請求の範囲に記載された特許発明の構成要件のすべてを充足することにより特許権侵害となることをいう。なお、対象品等が特許発明の構成要件の一部でも欠く場合には、原則として特許権侵害は成立しません。
※2 均等侵害とは、文言侵害の例外として認めらるもので、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成要件中に対象製品などと異なる部分があるとしても、その異なる部分が特許発明の本質的な部分ではなく、その異なる部分を対象製品などにおけるものと置き換えても特許発明の目的を達成することができるなど、一定の要件を満たす場合は、対象製品はクレームに記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解されることにより特許権侵害となることをいう。
※3 法律審とは、法律問題のみを審理し、事実問題は審理しない裁判所をいう。