種苗法関連裁判例2

種苗法関連裁判例2

こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。

現在(2016年5月)、種苗法に関する論文(主に現物主義について記述する予定)を執筆するために、裁判例を調べています。

そこで、備忘録も兼ねて、判例を紹介します。
なお、あくまで私的な解釈ですので、疑義等がありましたら是非ご指摘ください

種苗法に関する論文が掲載されている論文集はこちら

知財高判平成18年12月25日裁判所HP(平成17年(行コ)第10001号異議申立棄却決定取消等請求控訴事件)

判決書はこちら

事実
リンドウのような花のイラストりんどうの品種改良,生産,販売等を行っている控訴人らが,「芸北の晩秋」という名称のりんどうについて被控訴人がした別紙品種登録(本件処分)に,重大かつ明白な瑕疵が存在すると主張して,本件処分の無効確認を求めたところ、原審が請求をいずれも棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した事案である。

判旨
『品種登録出願に当たっては,願書に添付する説明書の別紙特性表に,出願品種の特性を詳しく記載しなければならないものとされている。

他方,種苗法の品種登録制度により保護の対象とされる「品種」とは,特性の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ,かつ,その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合をいい(種苗法2条2項),これは,現実に存在する植物体の集合そのものを種苗法による保護の対象とするものであって,例えば特許法による保護の対象が技術的思想たる発明であり,現実に存在する物等ではないこと(特許法2条1項)とは,異なるものである。それゆえに,種苗法は,出願品種の審査に当たっては,現地調査又は栽培試験を行うことを原則とし(種苗法15条2項),これにより,出願に係る植物体の存否を確認することとしている。

そして,品種登録の際に,品種登録簿に記載される品種の特性(種苗法18条2項4号)は,登録品種を品種登録簿上,同定識別するためのものであり,特許法において特許請求の範囲の記載に基づいて定められる特許発明の技術的範囲(特許法70条1項)とは異なり,それによって権利の範囲を定めるものではない(すなわち,品種登録簿に記載された特性と同一の特性を備えていても,品種登録簿に記載されていない他の特性において異なり,別品種であると判断される場合には,登録品種の育成者権を侵害するものではない。)。

もとより,出願の対象とされた品種と,その出願に基づいて登録された品種とは,品種として同一である必要があるが,そもそも品種の特性自体が上記のとおり権利の範囲を定めるものではなく,また,実際の出願手続においても,出願人が多岐にわたる形質項目についてすべて正確に記載することは,一般には期待し難いことにかんがみれば,種苗法施行規則において,出願時の提出書類に出願品種の特性を詳しく記載させることとした趣旨は,審査において,出願品種と現に調査している品種との同一性を確認するための手段とし,現地調査等において出願品種の特性を調査するための便宜とするものにすぎないというべきである。

以上によれば,出願品種の特性について,出願時の提出書類に記載された内容と,現地調査等によって確認された内容との間に齟齬があるからといって,品種登録が直ちに違法となるものではなく,出願品種と現に調査している品種との同一性の有無の判断に影響を及ぼすものであるか否かを検討した上で,同一性を欠くと判断される場合に初めて品種登録が違法とされるものである。』

解説
審査において、出願品種と現に調査している品種との同一性を確認するための手段とし,現地調査等において出願品種の特性を調査するための便宜とするものにすぎないと明確に述べている。

種苗法の保護対象が、「現実に存在する植物体の集合そのもの」であることから、出願時に出願人が記載した特性表の内容が実際の出願品種の特性と違ったからといって登録無効とならないという本件の判断は是認できる。

しかし、これはあくまで出願人が記載した特性表であるからこそ、「審査において,出願品種と現に調査している品種との同一性を確認するための手段とし、現地調査等において出願品種の特性を調査するための便宜とするものにすぎない」と言えるのではないだろうか?

一方、登録後の特性表は、”新たな品種と判断した審査官が認めた品種の特性(重要な形質に係る特性)”が記載されたものである。したがって、審査官は、登録後の特性表については、公知の品種とは違った特性が記載されていると認めているはずである。特性表は、区別性(種3条1項1号)を判断する際の特性(種2条2項)をまとめたものだからである。

そうであるならば、登録後の特性表については、本事案の判旨は適用されないと考えるべきである。

一方、現在の品種登録制度において、登録品種がいかなる品種であるかを判断する手立てとしては、登録後の特性表に記載された特性をすべて有するか否かで判断するしかない。

登録された瞬間に、現地調査または栽培試験した現物(植物体)から離れて、ある程度の特性の幅を有する”登録品種”に対して育成者権が発生すると考えることができる。そうすると、育成者権の客体がどれかが不明確になる(もちろん、現地調査または栽培試験した現物(植物体)は、”登録品種”と同一品種にはなるが。)。

このような段階になると、登録品種かいかなるものかは誰にも分からなくなってしまう。現時点において、唯一の手がかりは特性表しかない。
(なお、現在は、種苗管理センターで「登録品種の標本・DNA保存等委託事業のうち登録品種の標本・DNA保存事業」を行っているので、一部の登録品種についてはこの状況が改善されるかもしれない。)

そうであれば、特性表にある程度の法的効力を持たせることが自然ではないだろうか?

もちろん、種苗法が現実に存在する植物体の集合そのものを種苗法による保護の対象とするものであるならば、特性表に記載された特性のすべてを満たさなければ、同一品種であると断定することはできない。

しかし、登録品種の外延が分からない状態(登録品種の特性の幅が分からない)で、育成者権の侵害・非侵害を育成者権者に判断させるというのは、時間と費用をかけて品種を登録した育成者権者に酷なのではないだろうか?
(侵害被疑品種が出てきたら、育成者権者は、その都度、その品種と登録品種(と思われる品種)とを対比栽培しなければならなくなる。)

このようなことで、種苗法の法目的である「品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与する」ことができるのであろうか?

 

この裁判例等を考慮しながら、今後研究を進めていく予定です。
なお、この文章は研究が進むにつれて変更する予定であるので、その点予めご了承ください。

以上

弊所では、種苗法に関するご相談も承っております。
種苗法について何かありましたら、遠慮なくお問い合わせください。

追記:種苗法に関する論文が掲載されている論文集の情報を追加(2017/4/7)

この記事を書いた人

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