後から登録された商標権によって、歴史ある名称が使えなくなった事例
こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。
最近、頻繁に相談される商標案件と同様な事件が報道されているので、今回はそのことを書きたいと思います。
皆さん、「小説家(ライター)になろう講座」という市民講座を知っていますか?
私は、この事件が報道されるまで知らなかったのですが、1997年4月から開催されている市民講座だそうです。プロの小説家などを講師に迎え、受講生が提出する作品をテキストにして講評やトークショーを行っている講座のようです。
(2016年4月9日にネットで検索したところ、「小説家(ライター)になろう講座」ではなく、「山形小説家・ライター講座」になってました。今回の問題の影響かもしれません。)
実は、この講座の事務局に対し、2013年に「小説家になろう」という商標権を取得した大阪の企業から、その講座名の使用差止を求められたようです。
(指定商品・役務は、セミナーの企画・運営又は開催等になってます)
この大阪の会社は、「小説家になろう」という国内最大級の小説投稿サイトを運営しており、約39万作品がそのサイトに掲載されています(2016年4月現在)。
(ちなみに、この小説投稿サイトからプロの小説家が何人も輩出されているそうで、小説家の”たまご”にとっては素晴らしいサイトではないでしょうか?)
この会社の行為に対して、ネット上では「もはや言葉狩りじゃん。これから作家を目指そうというやつが、これでいいのかな」等とさまざまな批判が出ているようです。
しかし、商標権者からすると、これは当然の行為となります。
商標法では、商標登録された商標であっても、多数の者に使われた結果、普通名称※1や慣用商標※2になってしまうと、その商標権に基づく権利行使(差止請求・損害賠償請求)を行えなくなってしまう条項があるのです(商標法26条1項)。
(なお、「もはや言葉狩りじゃん。」という認識は間違っていますので、注意してください。商標は”言葉”を独占できるというものではありません。これについては、以前のブログを参照してください。)
「小説家になろう」という名称について使うなと言われたくなかったのであれば、大阪の企業よりも先に商標を取得しておけば良かったのです(商標権取得は、早い者勝ちの世界です)。
商標権を取得する費用は、使っていた名称が使えなくなって、新たな名称に変更しなければならなくなったことと比較して非常に安いです。
(今回のケースでは当てはまらないかもしれませんが、名称を変更すると、名称変更を知らせるための宣伝費や、社名であれば名刺・表札・パンフレット代など、多額の費用がかかります。)
社名が商標権侵害になるとの警告書を受けたという相談や、似たような名前の会社が出てきたので商標を取得しようとしたら、すでにその社名が登録されていたという相談が多くなってきております。
それほど高い費用ではありませんので、ビジネスをするのであれば、将来を見据えて社名等について、なるべく早く(できれば社名を決める際に)、専門家である弁理士に商標登録について相談しておくことをお勧めいたします。
知的財産は、”保険”ではなく、”投資”と考えて欲しいです。
今日は以上です。
PS:このブログを書いた当初は「小説家になりま専科」という名称だったのですが、2017年8月に調査したところ、「山形小説家・ライター講座」という名称に変更されていたので、修正しました。
※1 普通名称とは、取引業界において、その商品又は役務の一般的名称であると認識されるに至っているものをいう。
※2 慣用商標とは、もともとは他人の商品(役務)と区別することができる商標であったものが、同種類の商品又は役務について、同業者間で普通に使用されるようになったため、もはや自己の商品又は役務と他人の商品又は役務とを区別することができなくなった商標をいう。